この記事は1998年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

  NTERIVIEW 私のタクシー体験

 

 

女優

一路真輝さん

聞き手

名鉄交通会長 村手光彦

いちろ・まき

1965年1月9日生まれ、名古屋市出身。82年、宝塚音楽学校を卒業、宝塚歌劇団入団。「春の踊り」で初舞台を踏む。「ベルサイユのばら」のオスカルなどを経て雪組トップスターに。96年「エリザベート」を最後に退団。以後、ミュージカル「王様と私」、NHKテレビ「毛利元就」他、ラジオ、CDで活躍。

 

ロンドンで黒塗りタクシーのドアを壊しちゃいました。(笑い)

 元宝塚の男役トップスターで、現在は女優としてご活躍中の一路真輝さん。名古屋出身でもあり、8月には地元の栄・中日劇場でミュージカル「王様と私」の一ヵ月公演を終えたばかり。スリムな体に溢れんばかりのパワーを秘め、タクシーのドアを壊した実績?もあるとか――。

中日劇場で宝塚を見て将来を決めました

 村手 私ども無骨者で、ミュージカルはあんまり縁がないんですけどね。先月、中日劇場で公演された「王様と私」は、楽しく拝見させていただきました。おとぎの国のようなきれいな舞台で――。

 一路 ありがとうございます。私たちは当たり前のように、ああいう世界にいて、つい慣れっこになってしまうんですけどね。たまに違う職業の方に「きれいだった」とか言っていただけると、「また明日から頑張ろう」という新鮮な気持ちになれるんですね。

 村手 中日劇場は初めてですか。

 一路 主演させていただくのは初めてです。宝塚時代は何回か公演させていただいてるんですけど。でも今思えば、私は中日劇場で宝塚を見たのがキッカケで、この道に進んだんですよ。だから今回はとても懐かしいというか……。

 村手 ほお。それはどういう舞台だったんですか。

 一路 「ノバ・ボサノバ」という、リオのカーニバルを舞台にしたミュージカルなんです。とても華やかでエネルギッシュで、同じ人間とは思えないくらい異空間の人々に見えたんですね。それに引きつけられてしまって、ものすごいエネルギーをもらったんですよ。とにかく将来の夢も何もなくてボーッとした女の子が、いきなり「絶対、宝塚に入る!」と決めて、気がついたら自分も同じ道にいたんです。

男役をやっていた宝塚時代は表情も鋭く

 村手 宝塚時代は男役のスターでいらしたそうですけど、今は全くそういう感じがしませんね。

 一路 とりあえず退団して二年経ちましたので、多少は取れたかなと。「女っぽくなろう」という気持ちは特になかったんですけど、まァ、もともと女性ですから。(笑い)

 村手 男役のときは、気持ちの持ち方なんていうのも違うんですか。

 一路 シャキッとしていたかもしれないですね、今思えば。当時は意識していたわけではないんですけどね。普段から女っぽくなりすぎると、舞台に立ったときとのギャップが激しいので、とても辛いんですよ。だから気を張って、「女性役を支えていかなきゃ」というつもりで……。面白いのは当時の写真を見ると、とっても鋭い顔をしているんですよ。普段の顔が。だから気負った生活をしていたかもしれないですね。

 村手 歌舞伎の女形の人と、逆の意味で共通するところがあるかもしれないですね。

 一路 そうでしょうね。当時はズボン履いて座るときも、足開いて座ったりしてましたからね。今は普段、なるべくスカートを履いて。15年間でついてしまった癖を取ろうとしてるんです。

名タクに乗ると「お帰りなさい」と言われている気分に

 村手 もともと名古屋のご出身だそうですね。それも私どもの本社のある松原町だと伺ったんですけど。

 一路 そうです。生まれたのが松原町で、子供のころは名東区に住んでいました。今は実家が中区の千代田にあります。

 村手 すると名古屋にいらしたころは、名タクをご利用いただいたこともあるんですか。

 一路 私は16歳のとき宝塚に行きましたので、それまではタクシーはあんまり乗らなかったですね。でもこういうお仕事をするようになってからは、頻繁に利用させていただくようになって。名古屋で名タクに乗ると、「お帰りなさい」と言ってもらっているような気分にさせてもらえるんですよ。

 村手 そうですか。

 一路 私の持っているイメージとしては、名古屋のタクシーというのはとても安心というのがあるんですよ。それは名タクさんが頑張ってらして、他の会社もいい意味で競って、よくなっていると思うんですけどね。

 村手 ありがとうございます。

 一路 東京では、車によっては近距離だと降ろされたり、乗っている間中、文句を言われたりすることもありますからね。私が自分で車を運転しようと思ったキッカケもそこにあるんです。

 村手 なるほど。私どもも気持ちよく乗っていただくために、いろいろ考えているんですけどね。まずはご乗車いただいたお客さまに自己紹介しようということで、ずっと努力してきたわけですけど……。

 一路 それはとてもステキなことだと思います。タクシーは狭い空間ですから、特に女性は不安だと思うんですよ。それを緩和する心遣いというのは、すごくうれしいですね。私たちのお仕事も、挨拶が基本だと思うんですよ。舞台が始まる前に、まず全ての人に大きな声で挨拶するというのは、宝塚時代にたたき込まれたことなんですけどね。そうすると周りの皆も「あ、今日は一路さん元気だ」と思ってくれると思うんです。サービス業というのは皆、同じだと思いますね。

体力のある若いうちはミュージカルに挑戦

 村手 海外にお出かけになる機会も多いと思いますけど、タクシーで何か印象に残るご経験などはございませんか。

 一路 この前、ロンドンに行ったんですよ。海外のタクシーというのは、自分でドアを開けないといけないじゃないですか。日本で自動ドアに慣れてると、すぐそれを忘れちゃうんですね。で、黒塗りのタクシーに乗ろうとしたときに、ドアが開かなかったんですよ。多分、ボタンを押しながら、開けなきゃいけないんでしょうね。それが分からなくて、思いっきり引っ張ったら、把手が取れちゃったんです。(笑い)

 村手 ほおお。

 一路 それで運転手さんが「オー・マイ・ゴッド!(神よ)」とか言って出てきて、でも「自分の責任だからいいよ」って言ってくださったんです。どうやらそのドア、調子が悪かったらしいんですよ。で、私はこんなきゃしゃな体でしょ。力があるように思われなかったらしくて。でも私、実はムチャクチャ力持ちで、絶対私の力で壊したに決まっているんですよ。だからちょっとだけ、チップを弾んでおきました。(笑い)

 村手 これからもミュージカル一本とお考えですか。

 一路 一本とは思ってないんですけど、ミュージカルというのはとても体力がいるんですね。だからまだ若いうちは、ミュージカルに挑戦していきたいと思って。ただ私はお芝居も日本物も好きなので、やりたいものがこれからもっと出てくるかもしれないです。欲張りですよね。

 村手 ご活躍を期待しています。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。