この記事は1999年6月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

 

NTERIVIEW 私のタクシー体験  

 

東海ラジオアナウンサー

松原敬生さん

聞き手

名鉄交通会長 村手光彦
 

まつばら・たかお

1944年8月5日生まれ。同志社大学を卒業後、東海ラジオ入社。現在、報道制作局局次長待遇でアナウンサー。これまで、深夜番組「ミッドナイト東海」、10年続いた昼の番組「ぶっつけワイド」などを担当。演歌のCDも多数出し、4年前には、真咲よう子とのデュエット「いつも側にいて」を発売。血液型はB。


  タクシーの中の会話は、

発声練習にもなるんですよ。  

 東海ラジオのパーソナリティーとして活躍する松原敬生さん。「義理と人情の世界なら当方へ」と自認するホットな人柄から、主婦をはじめファンは多い。仕事柄、タクシーにはかなり投資したそうで、エピソードもたっぷりと―――。

 

名前を言うと責任感が生まれるのは、ラジオも同じ。

 村手 お仕事柄、タクシーをご利用なさることは、多いでしょうね。

 松原 僕はね、43歳のときに運転免許を取ったんですよ。だからそれまでは、随分タクシーに投資しました。同じ運転手さんに乗り合わせたことも、何度もありますよ。

 村手 ほおお。

 松原 それで生放送が終わった直後に乗ったときなんかはね、まずラジオのダイアルの位置がどこにあるか、パッと見るんですよ、習性で(笑い)。もう一つはね、ドラゴンズが大好きだもんですから、乗った途端に、「今日はどうだった?」と聞くんです。すると応えてくれるんですけどね。ああいう情報収集は、運転手さん次第なんですか?

 村手 そうですね。ただ自分の好きな球団を押しつけないようにとは、指示しているんですけどね。

 松原 ケンカになりかねませんからねー(笑い)。僕の家は、電車の駅で降りてから、ワンメーターくらいなんですよ。で、駅前のロータリーのところに、タクシーがズラッと待ってるでしょ。悩むんですねー。「乗っていいのかな」と。でもしんどいとき、乗りますとね。御社がやってらっしゃる自己紹介。あの第一声の音が優しいと、ホッとするんです。あれはいいシステムだと思いますね。

 村手 ありがとうございます。我々も、まず安心感を持っていただこうというつもりで、続けているわけですけれども――。

 松原 ラジオの世界でも、パーソナリティーを必要としない番組では、名乗らないことがあるんですよ。そうすると、心持ちが全然違うんですね。トチッても、名乗らないときは「ま、いいか」と(笑い)。運転手さんも、名乗った途端にね。「これは自分の空間だ」という責任感が広がるんでしょうね。

「高山厳さん(歌手)が褒めてました」と、運転手さんが。

 村手 話すお仕事をなさっていると、タクシーの中では、あんまりしゃべりたくないんじゃありませんか。

 松原 いえ、よくしゃべりますよ。僕は高校のときに、あるNHKの先輩の講習を受けたことがあるんですけどね。その方がおっしゃったんです。「今日はタクシーの運転手さんと会話することによって、発声練習をしてきた」と。

 村手 ほお。

 松原 それから織井茂子さんという歌手の方も、「いつもボイストレーニングをなさってるんですか」と質問しましたらね。「いえいえ。ただ駅からタクシーに乗ったときに、運転手さんと話をすることで、口の回りをよくするの」とおっしゃったんですよ。タクシーでの会話は、発声練習にもなるんですね。

 村手 なるほど。思わぬところで、役にたっているんですね。

 松原 そうですよ。それに僕は、タクシーですごくいい思いをした経験があるんです。岐阜で公開録音をやったときに、「心凍らせて」でヒットした、高山厳という歌手がゲストに来ましてね。終わってから、タクシーでお帰りいただいたんです。その後、偶然にも、高山さんを乗せた運転手さんの車に乗ったんですよ。その方が言うんです。「高山さんが松原さんのこと、すごく褒めてましたよ。司会がうまいと言って」と。これはね、本人から直接言われるよりも、うれしいですね。そういう会話の仲立ちもあるんです。僕は今、高山さんを神様のように思ってますよ。(笑い)

放送でも事故回避に神経を使います。

 村手 ずっとラジオ一筋でいらっしゃるんですか。

 松原 ええ、この顔ですから。(笑い)

 村手 ラジオアナウンサーのお仕事で、我々に見当もつかないような難しいことというと――。

 松原 放送の世界でも、事故というのがあるんですよ。スポンサーを間違えるとか、CMの入れ違いとか。ですからそういう安全管理には、相当神経を使っています。運転手さんと同じで、アナウンサーは事故を食い止める最前線なんですね。

 村手 なるほど。

 松原 僕は若い子にいつも、「車の運転と一緒だ」と言うんです。というのは、目の動きですね。原稿を読むときに、口で読んでいるところよりも、目は先を見るんです。でないと口の動きがついていかないし、事故も回避できない。運転も、障害物を先に認知してないと、回避できませんからね。

 村手 本当ですねー。テレビとの違いというのは、ありますか。

 松原 ラジオは画面がありませんからね。のべつしゃべってないといけない。それこそ10秒の間隔があると、事故といえるくらい、間があいてしまうんです。ですからラジオ出身で、テレビの野球アナをやったりすると、しゃべり過ぎて、声がじゃまになってしまうんです。

 村手 そういうこともあるんですか。

 松原 それに僕らは、目の動きが分からないんですよ。以前、テレビで生で歌ったことがあるんですよ。そしたら先輩に、「視線を横に動かすと、キョロキョロしているようで、素人っぽく見える。一点を見るか、上下に動かせ」と言われたんですね。

 村手 なるほど。

 松原 ラジオはね、どこを見ていてもいいし、どういう格好しててもいいわけですよ。実際、泊まり勤務で報道担当から起こされて、パジャマ姿でスタジオに入ったこともありますもんね。(笑い)

人というのは一冊の本以上に、中身の濃いもの。

 村手 今後、手掛けていきたい番組などは、ございますか。

 松原 今はいろんな人と出会って、お話を聞かせていただきながら、自分も切磋琢磨できたらいいなと。人というのは、1冊の本以上に内容が濃いものですからね。そういう番組が続けられたらという気はします。

 村手 我々の仕事も、人との出会いが基本ですからね。そこからいろいろなものを、学んでいくと――。

 松原 タクシーというのは、1日の出発と締めくくりに利用される方が多いと思うんですけど、そこで出会う運転手さんの役割は、大きいと思うんです。僕が帰るときに、「今日の放送、よかったですよ」と言われると、「いい1日だった」とリプレイできるんですよね。その一言が、すごいエネルギーになるんです。これだけストレス社会ですとね、運転手さんは、大変な使命を持っているという気がしますね。

 村手 ご期待に十分添えるかどうかは分かりませんが、貴重なご指摘をいただきました。今日はありがとうございました。