この記事は2000年6月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

私のタクシー体験  
椙山女学園大学教授
コトバ評論家
加藤主税さん

聞き手
名鉄交通会長 村手光彦

かとう・ちから

1947年、瀬戸市生まれ。大阪大学大学院修士過程、博士過程(英語学講座)修了後、愛知工業大学助教授を経て87年から椙山女学園大学へ。中日文化センター占い講師。英語学関係の著書の他、「女子大生が目撃 イヤな行動集」「世紀末死語事典」「日本語七変化」など多数。テレビやラジオ出演、各地での講演も多い。

道に迷ってタクシーを見つけると、神様か菩薩様かと。(笑い)

”大学で英語学を教える傍らコトバ評論家、また占い評論家としても精力的にご活躍の加藤主税さん。昨年10月から、大学の正式課目としては日本初の「運命学」を開講したことでも話題を呼んだ。タクシーにはいい思い出が多いそうで、「医者より人助け」と賛辞をいただいた。

英語よりも日本語のほうが素晴らしい。

 村手 先生が中日新聞に連載されている「コトバ学」、興味深く拝見しています。

 加藤 あれでも書いているんですけど、今はね、死語が増えているんですよ。写真機は死語で、カメラ。帳面はノート、白墨はチョーク。で、若者は自信を持って新しい言葉を使うんですよ。我々が折れるんです。「僕は古いのか」と。

 村手 そうかもしれませんね。

 加藤 なぜそうなったかというと、ハイテク世界ですよ。車も電化製品も、古いのはダメ、新しいのがいいというイメージ。それが言葉の世界に反映しちゃってるんですね。

 村手 なるほど。

 加藤 僕が最近、頭にきてるのは、英語かぶれですね。英語をしゃべれる人は偉いと。米国企業が日本に来てもスタッフは全部、英語しゃべってるでしょ。そのくせ日本から米国に行くと、英語をしゃべらないといけない。これを僕はね、「リンハラ(リンガル・ハラスメントの略)」と言ってるんです。言葉いじめですね。

 村手 そうすると学校では、英語をどう教えておられるんですか。

 加藤 英語は感情のニュアンスが、言語で表現できないんですよ。日本語だったらね、「わしゃ、疲れたぞ」と書いてあるだけで、年配で男性で・・・・というのが全部、分かりますよ。だから英語よりも日本語のほうがずっと素晴らしい、英語は道具として使えと教えてるんです。

 村手 受験勉強のころにそれを教えてほしかったです。(笑い)

タクシーは地域の顔です。

 村手 各地で講演会をなさる機会も多いと思いますが、タクシーで印象的なご経験はありますか。

 加藤 僕はタクシーに関しては、いい思い出が多いですよ。以前もね、名古屋空港に行こうと思って、予約したんですよ。その日は雪で道路が凍結していて、どうなるかと思ったけど、ちゃんと予約時間に来てくれて、定刻で着きましたね。タクシーがなかったら、ドタキャンするところだった。(笑い)

 村手 そうですか。

 加藤 道に迷って疲れて、目の前にタクシーが現れると、ホッとするしね。神様か菩薩様かと(笑い)。医者より人助け。こんないい仕事ないと思いますね。我々は感謝すべきでね。

村手 ありがとうございます。

加藤 タクシーというのは、地域の顔、玄関だと思うんです。県外から来た旅行者が、最初に乗るのはタクシーですからね。「名古屋はいいところだ」と思うのは、タクシーの運転手さんの責任ですよ。だから地域の人も、自分たちの代表をバックアップしないと。

タクシーにもインフォームド・コンセントが必要。

 村手 今後のタクシーに対して、ご要望などはございませんか。

加藤 実は今回、学生に、タクシーで嫌な経験がなかったか、聞いてみたんですよ。そしたらほぼないんですけどね。近距離の場合「近いけどいい?」と乗る前に聞くと「ダメ」と言われる。でも乗ってから行き先を言うと、怒るって。

 村手 なるほど。

 加藤 その状況を聞いたら、やむを得ないんですよ。タクシーが順番待ちしてるんですね。後ろから先頭になるまで、30分はかかる。それで近距離だと、僕だったら頭にきますよ、多分。だから「近場だったら流しを拾え、並んでいるタクシーは絶対ダメだよ」と言ってやります。

 村手 おっしゃる通りですね。何分待ったかは、お客さまには関係のないことだと教育するんですが‥‥。

 加藤 それはね、我々が気配りしないと。それから医者のインフォームド・コンセントと同じで、コミュニケーションも必要でしょうね。ある老夫婦が乗ったら、「遠回りされた」と言うんですね。違うんです、一方通行なんですよ。それは説明しなと。あるいは「本当はこっちが近道ですけど、今は渋滞してますから、こっちを通りますよ」とか、言ってくだされば、分かりますからね。

 村手 それは必要でしょうね。

 加藤 最近、僕の母親が倒れまして、自宅療養しながら病院に通ってるんですけどね。僕がたまに車に乗せても、大変なんですね。なかなか乗れないし、倒れそうになるし‥‥。高齢者社会になって、タクシーの運転手さんは大変だろうなと。

 村手 タクシーの場合、ご乗降に時間がかかると、後ろの車に警笛を鳴らされることもありまして。そういう細かい点で、社会全体の思いやりが大切だと思うんですけど。

 加藤 それは必要でしょうね。車いすの場合でも、相手が女性だと触ってはいけないらしいですね。「手をどうぞ」と言ってもダメらしいですよ。

 村手 そうなんです。お困りになったら手助けをするという考え方でないと。そういう点では専門の講習を受けまして、勉強しているわけです。

開運するには、まず自分の運勢を知ること。

 村手 大学で運命学の授業をお始めになったそうですね。

 加藤 そうです。日本の大学で初めての正式科目ということで、まずはたたき台のつもりで。運とか運勢というのは、否定されないでしょ。

 村手 ツキのことですか?

 加藤 そうです。その変化が運勢ですね。これは山あり谷あり、波になっています。波を知って、波を乗り越える。あるいはなるべく波の山に乗っていく。それを僕は運勢サーフィンといっています。だから自分が今、どこにいるのかを感知するのが大事なんです。それによって将来の方針もたてられます。

 村手 じっくり教えていただいて、開運しなきゃ。(笑い)

 加藤 一番簡単な開運法は、いいときがあったらゲンを担ぐこと。例えば試合に勝った。不精ヒゲで勝ったから、次も剃らない、というようなことです。それから悪いときがあったら、ツキを変える。髪を切るとか、ネクタイを変えてみるとか。そうすると山が続くんです。

 村手 なるほど。谷のときに辛抱して、山に変える努力が必要なんですね。

 加藤 そうなんです。運勢の波を知っていれば、辛抱できるんです。最近の若い人に辛抱が足りないのは、先を知らないからですよ。今が楽しけりゃいいと。でも80いくつまで生きているわけですから、その間の人生配分を決めないと。だから結構ね、説教するには運命学っていいなと。(笑い)

 村手 それも大事な教育の一つですね。今後のご活躍を期待しています。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。