この記事は2000年12月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

 

バックミラー

接遇にいきる古武術のたしなみ

永作 正輝(南部第2営業基地)

 シートの背にドライバー(営業係)の自己紹介カードが書けてある。趣味の欄に迷わず「格闘技」と書いた。

 ファンには違いないが、少し立場が違う。たしなむのである。それもちょいと珍しい古武術という分野を。

 水戸市で生まれ育ったので、2歳のころから諸賞流の修行を始めた。厳格な父親の教育方針だった。代々水戸藩に伝わる門外不出の武芸である。

 武家の兵法だから幅が広い。槍術、手裏剣、馬術、居合術、弓に体術、古式泳法もある。技術のみならず薬学、地学、天文学まで加わってくる。もちろん行儀作法もうるさい。正座、箸の持ち方、歩き方などにも、平常心を保ち、常に敵襲に備えるスタイルがある。

 秘技だから、学校でも仲間が(修行の事実を)知ることはない。動体視力を養うため、正座したまま箸で、飛んでいるハエをつまむ訓練もする。宮本武蔵ばりだが、練習すれば本当にできる。

 その後、アメリカで空手道場のコーチを経て、22歳の時には諸賞流の13代宗家になった。

 だから格闘技は生まれて以来の一貫した趣味といえる。おかげでハンドルを握っていても、同好の士と話が盛り上がる。もしボディガードタクシーがあれば、真っ先に応募したいと、夢を話し合ったこともある。

 ストーカーに悩まされている女性のお客さまから請われて、護身のアドバイスをすることも多い。技術ではなくて心構えを口伝する。お年寄りの女性なら、お経を唱えるよう勧めるのである。慌てず事に対処するのに、これは本当に効果がある。もっと本格的にという要望もあって、休日に護身術教室を開いたこともある。

 要は日頃の精神修行が大事だと思う。戦わないことも極意の一つだからだ。自若として隙を見せなければ、そうそう難事に当たることもない。

 これは営業係としての接客にも通じる。接遇に多少なりとも自信が持てるのも、幼年時から身につけてきた礼儀作法のおかげだと思うのである。

 最後に、このところ続発するひったくりの対処法をひとつ。それはモノに執着しないということ。バッグを引っ張られたら、迷わず手放す。最低怪我をしないで済む。もちろん壁側の手でバッグを持ち、壁よりを歩くという心構えはいうまでもないが。