この記事は2001年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

私のタクシー体験

フィギュアスケーター
伊藤みどりさん

聞き手
名鉄交通社長 大島 弘

いとう・みどり

1969(昭和44)年8月13日生まれ。東海学園女子短大卒業。11歳で世界ジュニア選手権8位。全日本フリー選手権大会、全日本選手権大会に連続優勝。88年カルガリー冬季オリンピック5位、89年世界選手権大会優勝。92年、アルベールビル冬季オリンピックで銀メダル獲得の後プロに。以後はプロの大会でも優勝多数。98年、長野冬季オリンピック聖火の最終点火者に。2001国際オープンフィギュアスケート選手権大会3位。

自己紹介、面白いですね。かえってこちらが「あ、どうも」と。
 アルベールビル冬季オリンピックで銀メダルに輝いたのが92年のこと。以後はプロとして、相変わらず華麗なジャンプで魅了させてくれる銀盤の女王、伊藤みどりさん。今でも名古屋に住み、大須のスケートリンクを練習場にしているため、名タクへの親近感もひとしおのようだ。

ショーでもしょっちゅう転んでいます。

 大島 2月のプリンス・アイスワールドのショー、一番前で見せていただきました。

 伊藤 えっ、転んでいませんでした?

 大島 ええ。

 伊藤 よかったぁ!(笑い) 何回か転んだときもあったんですよ。お恥ずかしいところをお見せしたかと。

 大島 私はスケートというと、テレビでしか見たことがなかったので、あんなに迫力あるものだとは知りませんでした。ぎりぎりのところで精いっぱいおやりになってらっしゃるから、プロでもやっぱり転ぶことがあるんですね。

 伊藤 もうガンガンに転んでますよ。もちろん精いっぱいのところを見せることも大事ですけど、ダイナミックに転んだりすると、お客さまから「オーッ!」とどよめきが聞こえたりしますので。なるべくそういう姿は見せたくないなと。

 大島 でもサーッと通った後、風がフワッときたり、ターンの後にドン! と音がしたり・・。

 伊藤 ライブならではですね。風だとか、音だとかいうのは。そういうのは実際に目で見ていただかないと、なかなか感動が伝わらないんですね。タクシーと一緒で、乗っていただかないと名タクのよさが分らない。(笑い)

名古屋人にとっての信頼度はすごいです。

 大島 全国をお回りになっていらっしゃって、タクシーをご利用なさることも多いと思うんですけど、「伊藤みどりさんですか」と言われませんか?

 伊藤 言われます。で、私は大きなスーツケースを持っていることが多いんですね。だから「海外にいらっしゃったんですか」「や、ちょっと国内の仕事で」という感じで。でも疲れてグタッとしていると、それを見て声をかけられない運転手さんもいらっしゃるし。話したくないときもあるじゃないですか。

 大島 おっしゃるとおりですね。お客さまのそのときの状態を配慮して、適切な話し掛けができるのが理想なんですけど。

 伊藤 それはすごい大事なことですよね。でも名タクさんは安心感が違いますね。いろんなお店に行っても、タクシーを呼ぶというと必ず名タクだし、町で拾うときもまず名タクを探すし。名古屋人にとっての信頼度はすごいですね。

 大島 ありがとうございます。

 伊藤 私なんか時間に追われてることが多くて、「名古屋駅でこの時間に乗りたいから急いでください!」「ハイ、分りました!」って、裏道通っていただいたり。で、パッと着けてくれると「助かりました!」という感じで。

 大島 なるほど。

 伊藤 名タクさんは乗ると必ず「名タクの○○です」って言われるじゃないですか。あれ面白いですね。かえってこちらが「あ、どうも」という感じになっちゃって。そのへんから安心感があるんですね。ただ唯一、名古屋駅から大須のスケートリンクに行くときに、近過ぎちゃって嫌がられるときがあるんです。それはどの会社のタクシーも同じですけどね。

 大島 私どもでは、近くのお客さまも大切にするという教育をしているんですけど、まだまだ徹底できていない部分があるかもしれませんね。

道路の上でもスピードが大好き。

 伊藤 私が一番思うのはね。タクシーの運転手さんって夜働いている人もいて、事故とかいろんなハプニングが考えられるじゃないですか。だから予防のために健康管理したり、大変なんじゃないかと。

 大島 ですから勤務日の前の、休みの使い方もいろいろと注意してるんですよ。酒を飲み過ぎないようにとか。ご自分では車を運転されますか。

 伊藤 ガンガンに大好き。時間があると車でピュッと。「伊藤みどりが死ぬときは車の事故だね」って言われるくらい、ブッ飛ばしますので。(笑い)

 大島 ほお。スケートと同じで、スピードがお好きなんですね(笑い)。高速道路なんかもよく走って?

 伊藤 走りますね。「おいしいもの食べに松阪まで行こうか」とか。アイスショーのときも、東海三県までくらいは自分で運転していきます。それこそ「タクシーに乗りなさい」って言われても「いいから、いいから」って。

オリンピックは天才の集まりです。

 大島 今は年間、どんなスケジュールで動いてらっしゃるんですか。

 伊藤 プリンス・アイスワールドのショーで、北海道から九州まで全国を1年かけて回っていますので、それが年間の3分の1くらい。あとは東京で仕事をして、残りは名古屋で練習してという感じですね。

 大島 練習はいつも大須のスケート場でおやりになるんですか? 一般の方に混じって。

 伊藤 基本的には選手だけの時間帯に練習しますけど、うまく時間が合わないときは一般の方と一緒に練習しています。

 大島 「伊藤みどりさんだ!」と言われたりしませんか?

 伊藤 ええ。ときどき「サインを」とか、「写真を撮らせて」とか。でもまさか私がこんなところで滑っているとは思わないみたいだし、こんな小さいなんて思わないみたいで。

 大島 本当にテレビやショーでジャンプなんかを拝見していると、大きく見えますからね。すごい迫力で。ジャンプして降りるときなんか、足が痛くないんですか。

 伊藤 そうですね。必ず片足で降りなきゃいけないので、体重の5倍の力がかかると言われているんです。それは小さいときからの積み重ねとか、日ごろの訓練で鍛えるんですけどね。

 大島 オリンピックでメダルをとるためには、技術も大事でしょうけど、精神力が大きいでしょうね。

 伊藤 ええ。オリンピックに出る人たち自体が、天才の集まりなんですよ。そのなかで実力を発揮するためには、精神的な強さがなければ。それは日ごろの自信がないと、ついてこないんじゃないかと思いますけどね。

 大島 スポーツ選手の前向きな姿勢は、いつも感動を与えてくれますからね。

 伊藤 頑張るってことは、何でも大事なことですよね。自分のためにやることなんだけど、それが皆さんに伝わるじゃないですか。「感激した」と言ってくださるのは、怖いことでもあるんですけど、すごい力ですね。

 大島 そうですね。これからも頑張ってください。今日は楽しいお話をありがとうございました。