この記事は2001年12月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

菱形つれづれ

「流し営業」

名鉄交通取締役相談役
村手光彦

 大都市では「流し営業」が、最も積極的なタクシー乗務員の姿勢になっています。

 お客さまが「歩くにはちょっと遠いな」とか、「少し時間に遅れそうだな」と感じられたちょうどそのとき、空車のタクシーが現れて、お役に立つというのが流し営業です。こうした出会いのチャンスを増やすために、ゆっくりと移動しながら、お客さまを探すのです。

 そんなに走り回れば、疲れて応対も悪くなりそうだし、事故だって増えるのではないかとご心配される向きが多いかもしれません。が、実際には勤労意欲が高く、流し営業の回数が多い乗務員のほうが接遇がよく、事故も少ない例が多いのです。

 私がはじめてタクシーに従事したとき、前任の社長からこの話を聞き、流し営業の体験をすることにしました。朝6時半ごろから深夜2時過ぎまで、丸2日分の労働です。私も自分で運転できるのですが、今回はベテランのT君が運転するタクシーの助手席に、「乗務員見習」として乗り込みました。

 お客さまの発見に専念できるし、無線の取り扱いもアマチュア無線の経験で慣れているはずだし、きっとT君のお手伝いとして満足いく成績が得られるはず‥。というつもりでしたが、何と無線による配車7回、「流し」による途中営業20回のなかで、私がT君より先にお客さまに気づいたのは、たった1回だけでした。

 T君がブレーキを軽く踏むとか、無線に手を伸ばすといった気配に私がハッとすると、行く手にお客さま、といったありさまだったのです。

 プロの腕前をつくづく感じさせられた1日でした。