この記事は2002年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

菱形つれづれ

「9月11日」


名鉄交通取締役
相談役
大島 弘

 9月11日は東海豪雨の日である。午後から強くなった雨足は一向にやまず、夜になると各地で被害が報じられた。「何もなければいいが」と、寝つかれない夜になった。未明に新川堤防決壊のニュースが流れたが、詳細は分からない。早朝になって、「西基地が浸水で大変なことになっている」との一報を受けた。テレビを見ると、西基地は茶色い水の中にある。

 一刻も早く現地に行って状況を把握し、復旧対策を立てなければならない。とはいっても鉄道は不通になり、頼みの綱はタクシーだけ。気の遠くなるような時間だったが、何とか本社にたどり着いた。何よりも心配だったのは、お客さまと従業員、その家族の安否である。幸いお客さまに迷惑がかかることはなかったものの、基地には従業員40人ほどが孤立していた。

 とりあえず食料を急仕立てのボートで届け、私も基地近くの水際まで出向いた。自衛隊の援助で全員が無事本社に収容されたのは12日の夜遅くになってから。家族との連絡も取れた。泥まみれの体を風呂で洗い流し、おにぎりをほおばりながら、ようやく皆の顔がゆるんできた。私も目頭が熱くなった。

 13日になると減水し始め、膝までになったときには、職員や組合役員が率先して復旧に立ち上がった。休日中の従業員も相次いで駆けつけた。誰に指示されなくても「自分の仕事場だ」という思いがあったのだろう。その姿に胸が熱くなった。

 社員にいつになく頼もしさを感じたり、感動したり。豪雨による被害は大きかったが、得たものも大きい。皆がその気になれば大きな力になることも、身を持って体験した。

 東海豪雨の翌年の9月11日、ニューヨークで同時多発テロが起こり、世界中を恐怖に陥れたことは記憶に新しい。

 今年の9月11日こそは、初秋の好日になるのだろうか。そうあってほしいものである。