この記事は1999年12月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
日本舞踊・西川流三世家元 西川右近さん 聞き手
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運転手さんもお客さんも、夫婦でも、
演じることが必要。それでお互いうまくいきます。
西川流三世家元として、「名古屋をどり」の舞台や、更新の指導などにご活躍の西川右近さん(60)。優雅な古典舞踊はもちろん、創造性あふれる新作舞踊も観客を大いに楽しませてくれています。その家元としての目から見るタクシー談は |
伝統芸能にも、キムタク(木村拓也)のような人を
村手 西川流の「名古屋をどり」の舞台は、僕も2回ほど拝見したことがあるんですけどね。どうも無調法でして、「きれいな舞台だな」というくらいしか分からないんです。 西川 それが一番だと思います。たとえばお茶にしても、「おいしいな」と思えば、それでいいわけですね。お湯加減がどうだとか、そういうのは専門家が考えればいいことで。ですから「つまらない」と思ったら、寝ちゃえばいいんです。面白ければ、ご覧いただければいいんですね。 村手 なるほど。そういうものですか。 西川 踊りも随分変わってきまして、何しろ百数十年前に書かれた言葉ですからね。例えば廓(くるわ)になぞらえますと、昔は「大門の」と言えば、吉原の大門だということがすぐ分かったんです。今は廓がないから、分からない。それと昔の言葉は、掛け言葉が非常に多いんですね。ズバリと表現するのじゃなくて。ですからその意味まで分かろうとしますと、なかなか難しいですね。 村手 そうでしょうね。 西川 それと伝統芸能というのは、あんまり格好いい人がやってないんですね。家元も我々のように、割と太くて小さくて、あんまり器量のよくないのがやっておりまして。(笑い) 村手 いえいえ。 西川 本当はもっと格好いい人がやるといいんです。例えばキムタク(俳優の木村拓也)みたいな。そうすると若い女性が、「カッコいい!」ということに。最近は伝統芸のでも、若い狂言師がでてるんですよ。ああいう人は、これから人気がでてくると思います。 デンマークでは運転手さんの家でご馳走になりました 村手 海外へもよくお出かけになると思いますけど、タクシーで何か面白いご経験はありませんか。 西川 ニューヨークに踊りの公演でいきましたときにね。ハーレムでよる、舞台の準備をしまして、外に出てタクシーを拾おうと思ったら、いっぱい来るんですよ。人を乗せて。降ろすとパーッと逃げるんです。ハーレムから人を乗せない。タクシーに乗るのに、大騒動でしたよ。 村手 ほう。 西川 デンマークにお母さんと娘と3人で旅行したときは。案内をしてくれたタクシーの運転手さんが、非常に街のことをよく知っていてね。例えば博物館の話が出ると、「僕は休みの日に、女房を連れてそこを歩くのが好きでね」というような話をしてくれて。すっかり気に入って、結局、運転手さんのご家庭に僕たち3人が招かれてね。夫婦でご馳走してくれました。 村手 それはいいご経験でしたね。 西川 外国に行って面白いのは、日本人はタクシーが止まっているのに、乗らないんですね。ドアが開かないから。自動的に開くというのは、日本だけなんですね。
名前を言うときは、もっとゆっくりと 村手 日本のタクシーに対して、ご感想やご意見はおありですか。 西川 僕たちがタクシーに乗って、一番不安に思うのは、自分の言った行き先が、通じているのかどうかということなんですね。ですから「○○までですね」と復唱していただくと、すごく安心するような気がします。 村手 それは大切なことですね。私どもの会社でも、復唱するように指導はしているんですけど--。 西川 それで名タクさんの場合、「名タクの○○です」とおっしゃるんですね。名前を言われますと、ひとつ近くなっていいと思うんですけどね。名タクに乗っているのは、分かっているんですよ。ところが「名タクの」の方がハッキリしていて、名前の「○○です」がハッキリ聞こえないことが多いような気がするんです。 村手 なるほど。 西川 これは人間の活舌(かつぜつ)として、必ず最初に言う言葉の方がハッキリとしてしまうんですね。「西川右近です」というと、「西川」がハッキリして、「右近」が聞こえないというような。 村手 そう言われれば、そうかもしれないですね。 西川 それからタイミングといいますか、間が悪いときがあるんです。あわてて名前を言われて、「え?」と、通じない場合がある。少し走ってから落ち着いておっしゃればいいのに、もったいないなぁと。 村手 おっしゃる通りですね。ご指摘の点を、これから勉強していきたいと思います。 踊りでも名乗りに演出があります 西川 私どもも狂言形式のような踊りでは最初に名乗りというのがあるんです。お客さまは「誰が出てきたのだろう、主人か家来か」と思うわけですね。ですから音曲で出て、止まって名乗ると安心して聞けると。 村手 ほう。 西川 それから昔の歌舞伎というのは、人が出るというと、付け打ちといって、板をバタバタバタと叩くんです。そうすると「誰か来るな」と、お客さまはしゃべるのを止めて見る。演出にも工夫があるんですね。 村手 なるほど。 西川 車を運転なさるかたも、運転手をうまく演じなくちゃいけないと思うんですね。我々もお客を演じる。これも必要じゃないかと思うんです。そういうことでお互いうまくやっていける。夫婦でもね、ある意味で演じてないと。40年も50年も一緒に住んでいられませんもんね。(笑い) 日本独特の曲をもっと知っていただきたい 村手 家元として、これからどんなことをお考えですか。 西川 今は日本独特の音楽が少ないんですね。学校教育で日本の歌を教えなくなった。ところが例えばハワイに行くと、誰でもハワイの歌が歌えるんですね。プエルトリコに行くと、サルサの音楽が一日中、どこに行ってもかかっているんです。「これがオレたちの音楽だから」と。 村手 日本の歌というと、長唄とか・・・・。 西川 ええ。長唄、常磐津、清元ですね。聞く機会がない。でも若い人が踊りをご覧になって、そこで三味線音楽に興味を持たれる方も多いんです。ですから知っていただく機会をもっと作りたいと。 村手 三味線は若いころ習いかけたんですけど、難しくて放棄しました。(笑い) 西川 僕は学校へ踊を教えに行ってるんですけど、そこで三味線や着付けも教えているんです。着物もね、自分の国の民族衣装が着れないのは、日本人だけなんです。国の音楽を知り、民族衣装も着れる。そういう人を増やしたいんですね。 村手 私もこれからは、浴衣くらいは着るようにします(笑い)。今日はお忙しいところ、貴重なご意見をありがとうございました。 |